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寝台特急「さくら」で「一夜」の恋~「君は夢の中」 (2)

「間もなく、19時44分発、寝台特急さくら・はやぶさ号東京行が到着します…」

ホームの放送が列車の接近を告げ、重々しい響きと共に青い車体が目の前を連なって通り過ぎた。

自分が乗る8号車「ソロ」に乗り込む。

今日は週末のせいか、思っていたより「さくら」を待っている人が多かった。
物好きは自分だけじゃない、と思うと何となく安心せずにいられなかった。
停車時間は3分なので、乗り込んで旅装を解いているうちに、静かに発車した。

指定された個室に荷物をおき、周囲を見回す。
狭い個室ではあるが、空間を占有しているのは自分だけ、これから暫くの間自分だけの時間が展開するのだという満足感に、顔がほころぶ。

すっかり旅装を解くと、まずは買い込んだガソリン?で「一人宴会」を始める。      
個室の中で立つことは難しい。だが、男の一人旅ではまたこれが絶妙な空間なのだ。

博多を出て、しばらくは福岡市内の光が追いかけてくるが、そのうちに光が少なくなって、闇が支配する面積が多くなる。

自分は個室に乗るときは、個室の照明を完全に消す。そうすると、照明を点けていては見えない夜の車窓が浮かび上がってくる。それを肴に酒を口に流し込む。

これがまたよい。

淡い光が窓の外をゆっくりと流れる。
光とアルコールが五臓六腑に溶け込むような感じで「今日のことはもう忘れて、後は自分のために使いなさい」と言われている様な気分になるのだ。

寝台列車に乗って思うことは、乗客や車内の雰囲気を見ていて、新幹線や飛行機のような、どこか素っ気無く冷たい感覚がないことだ。誰も彼もがゆったりと、穏やかに身を委ねているように見える。

会社には時間とお金はかかるが、「眠っている間に移動するから、宿泊代が浮いて経費面で有利」と説き伏せて寝台列車の利用を認めさせていた。

再び光が目に付き始め、どうやら北九州市内に入ったようだ。
北九州工業地帯の光の洪水も、普段は眩しすぎる位なのだが、照明を完全に落とした個室寝台車の中からだと妖しくすらある。

終わり良ければ全て良し。思わず上司や支社長の顔が浮かんだ。自分は、仕事から解放されて一人優雅な時間を過ごしています…と自己満足に浸った。

この列車には、ホテルのロビーにあたるロビーカーも連結されている。
ずっと個室に閉じこもっていると息が詰まりそうな時もあるし、自分だって別に人嫌いな訳ではないから、気が向いた時はロビーカーで見知らぬ人と酒を酌み交わしたりすることもあるのだが、昨日今日とずっと人と会っていたから、今日はそんなに人恋しい訳でもない。

今夜だけは飛び切りの自分だけの時間を過ごしていたかった。

小倉を過ぎて、関門トンネル両端の門司と下関ではいくらか停車時間があるので、ホームへ出る。海からの風が、酔いで火照った体に心地よかった。

下関を出発してすぐだった。

「皆様、ただいま時刻は21時を回りました。既にお休みのお客様もいらっしゃいますので、特別の場合を除き、明日の朝6時半頃、岐阜到着までお休みさせていただきます…」

列車を降りるまでは、事実上外界と遮断されている状態の列車の旅では、この放送が一日の終わりを告げているといってもよかった。早く寝ろと急かされているようでもあるが、ずっと気を張り詰めていた出張の後、個室の中では自分の他に誰もいない。

だから、もう暫くは自分だけの時間を過ごしていたかった。

それに、関門トンネルを越えて本州に入ると、「仕事から解放された」という気分がいやが上にも高まって、気分が大いにリラックスしてくるのが分かる。この瞬間が本当にたまらなかった。

そうは言っても、寝台列車で寝るのは所詮自分の家の布団で寝るのとは違うから、心身に負担がかかることに変わりはない。
従って、適度な所で飲むのを切り上げるのが翌日に疲れを持ち越さないコツであることを、度々の利用で体得していた。

下関を出てしまえば、しばらく大きな都市は通らない。広島に着く頃には日付も変わってしまっている。

博多を出た時よりも、闇が支配する面積が多くなった。
空には月が輝いている。そろそろ寝よう…

体を横たえると、全身に回った酔いのお陰で、またたく間に力が抜けて行った。窓の外と車内を覆う闇と、列車の刻むリズムに、そのまま同化していくような感じがした。




気がつくと闇の中に列車の振動が伝わり、カーテンの外を時折淡い光が流れていた。どれくらい眠っていたのだろう。枕元の時計に目をやると、午前2時を過ぎていた。一体どの辺りを走っているのだろう。

再び寝ようと思ったのだが、寝る直前まで酒を飲んでいたせいでひどく喉が渇いていて、水を飲みたくなった。
寝る前の身支度を除いて、博多からずっと個室に籠っていたから、何となく勿体無い様な気がして、水を飲むついでに部屋の外へ出たくなって、ロビーカーへ向かった。

午前2時を過ぎて、さすがにロビーカーには誰もいないだろうと思い、中へ入っていった。

意外なことに、若い女性が一人座っていて、窓の外をぼんやりと見つめていた。
一瞬幻を見ているのかと思って目をこすってみたが、やはり幻ではない。

最近の寝台列車の乗客としては、明らかに異質だった…


~つづく~






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寝台特急「さくら」で一夜の恋~「君は夢の中」
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コメント

No title

こんばんは。やはり乗り鉄の人間にしてみれば、寝台の個室の狭い空間を楽しむ傾向にあるんですね(笑)あとは照明を消して車窓を眺める辺りも同様のようで。昨夏に東京への出張であけぼのを利用して以来ご無沙汰です。何だか無性に乗りたくなりました。さて肝心の小説の中身ですが、今後の展開がとても気になります。次回作、早く読んでみたいです。

No title

一「鉄」の、たわいもない文章にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます!
これからがんじがらめにしますよ…

No title

今後の展開楽しみ♪
期待してま~す

No title

今回の文章でちょっと落胆……というのも‘九州寝台名物’がスルーしていたからですね。うーん……

ちなみに私が博多駅から寝台に乗る時は毎回ですが、小倉駅で先頭車両に移り、門司駅と下関駅で車外に出ますね。と書いたら解りますよね。機関車の交替シーンです。
あ、そういえば私がB個室ソロを利用したのは秋田→上野でしたから、寝台特急あけぼの号になりますね。九州寝台では全て開放式B寝台でした。で、何故か私のボックスでは母と子連れとか女性同士が多かったですね。特に後者の時は凄く緊張……逆に考えればアタックするチャンスがかなりあったのに、自ら潰してしまったことになりますね。今更ですけど、ある意味で物凄いミスですね。

No title

shuu_205さん、おはようございます。
たわいもない文章におつきあいいただきまして、ありがとうございます。
少し長いのですが、よかったら最後までおつきあいください!

No title

まーちゃん、落胆してしまったのなら申し訳ありませんが、この文章元々「非鉄」な人に読まれる想定で書いたものです。
主人公も「さくら」に乗るのは好きだが、「鉄」ではない設定です。
従って関門の機関車交換をじっくり書くと、マニアックな文章になるのでさらっと流したのですが、結局「鉄」な人にしか解り得ない文章だから、このブログにアップするにあたってはきっちり書いた方が良かったかも知れませんね。
率直なご意見ありがとうございます。

No title

初めまして、れなです。
訪問&コメント、ありがとうございます。 (ペコリ(o_ _)o)))

小説書いてるんですかぁ 。。。
すごいですネェ 。。。 ^^

良かったら、また、来て下さい 。。。

No title

HEROさん、厳しいことを書いて申し訳ありませんでした。ですけど、‘鉄’としてではなく‘旅情’として読むと、これで充分になりますね。ちょっとした魔術かな?
とにかく……
下関は去年の夏に行きましたが、本当に本州の西の果て(実際は違いますね)であり、九州への玄関にもなっていますね。で、この時は唐戸から船で巌流島を往復し、唐戸→檀之浦古戦場→御裳川公園→和布刈公園→門司港駅と全て徒歩で行きました。この中で注目は門司港~関門海峡めかり間の「門司港レトロ観光線」でしょうか?4月26日に開業しましたから、こちらも乗りたいですね。
で、当日は小倉で小倉が発祥である焼きうどんを食べてから門司港へ戻り、115万人という日本で二番目に多い観客であふれる関門海峡花火大会を見てきました。関門ですから下関と門司港で同時に打ち上がります。有料観覧席から見ましたが、本当に迫力満点でしたよ。終了後は門司港の焼きカレー……是非ともHEROさんに勧めますね。もちろん駅弁は「かしわめし」でしょう。

No title

れなさん、はじめまして。ご訪問ならびにコメントもいただきましてありがとうございます。

小説…と言うには恥ずかしい文章ですが、ものを書くのは昔から好きでした。

れなさんも時々お気軽においでください…

No title

まーちゃん、率直なご感想というのは嬉しいものですよ。

下関・門司港は16年前に行きました。いったん門司まで行って和布刈公園、それから関門トンネル人道をくぐり、それから赤間神社、唐戸、関門連絡船でもう一度門司へ行って門司港界隈を散策しました。
下関はともかく門司港周辺は、九州鉄道記念館とかレトロ観光線とか出来て、今はだいぶ変わったのでしょうね。

でも、下関・門司名物は何をおいても機関車交換でした。見られなくなって寂しい…下関のふくめしも、ホームでは売らなくなったと聞きましたし、ホームのうどん屋ももう無いとも聞きました。

No title

確かに下関駅のホームでの販売が無いことは淋しいですね。メインディッシュの無いフルコースと同じです。でも駅自体はあまり変わっていませんね。ただ、数年前にあった事故では心配していましたが……
門司港レトロは少しは変わっていますが、歴史的な建物は重要文化財ですから、変わっていませんね。もちろん門司港駅や門司駅も変わっていませんよ。ただ、小倉駅はかなり変わっています。コンコースにモノレールが突っ込んだ形になっていますからね。
小倉といえば小倉城・致津遊園・無法松の一生もそうですが、路面電車も走っていました。けど、今や黒崎駅前から筑豊直方駅までになっています。ちなみに筑豊直方駅は直方駅からかなり離れていますね。しかも、あまり目立ちません。
話を戻して
私が飯塚から上京した翌々日に母が上京しましたが、当時は中国自動車道が全通していませんでしたから、小倉日明港からオーシャン東九フェリーで徳島港を経由して東京有明港まで約36時間かけて行っていました。ちなみに現在、発着港は小倉日明港ではなく新門司港(駅とはかな~り離れている)に変わってきてるいます。

No title

下関のホームの販売が無い…仰る通りメインディッシュの無いフルコースですね。ブルトレも廃止され、あげく「ムーンライト九州」の運転も無い。駅や町の佇まいが変わらないのはよいのですが、ブルトレの廃止以来、何かが足りないような気がしています。
関門トンネルを直通していた普通列車も下関で切られ、味わいのある列車も無くなって寂しいですね。

小倉は一度降りたことがあるのですが、どこをどう行っていいか分からず、結局門司港へ戻りました。
小倉の見どころはどこかありますか?

No title

小倉は日豊本線と日田彦山線の乗換駅ですね。で、付近は…小倉城とか致津遊園とかかな?こちらも博多と同じく屋台はありますが、お酒を出す店があまり無いようです。あとは…関門海峡花火大会の時は門司港・下関ともにホテルが直ぐに満室になります。その穴場的になるのは小倉になりますね。
ちなみに当日は小倉駅北口の傍にあるユタカビジネスホテルに宿泊しました。で、部屋の中にある冷蔵庫にはミネラルウオーターが1本サービスで付いていましたね。それから、当日の女性従業員は全員浴衣姿…みんな私より若い世代ですから、コスプレかと間違えてしまいました。しかもドキドキ……
次いでにですが、小倉から少し西へ行くと明治時代の日清戦争の賠償金で創業した新日本製鐵八幡製鐵所があります。高炉には1905の数字がはっきり見えます。その手前にあるのはスペースワールドで、1回だけ行ったことがあります。中でもスペースドーム内にいるロボットは中に人がいるのでは?と思える感じですし、何と関西弁もペラペラ!!です。あとはスペースシャトルの発射台もどきがあって、発射の瞬間が見れますが(?)、何故か後方にあるあの高炉がフレームに入ります。

No title

まーちゃん、おはようございます。
そうですか。小倉城とか行って、あとはやっぱり門司港をゆっくり歩くようかな…

No title

こんばんは。九州寝台を思い出しながら、読ませていただいてます!
自分だけの小宴会、かなり楽しいですよ。この後が楽しみです。

No title

寝台特急あかつきさん、自分だけの小宴会何度味わったか…
原文は相当長いので、ブログで適当な量にご覧いただけるよう鋭意手を入れております。
どうぞお楽しみに!

No title

おはようございますm(__)m
このシリーズは実話ではなく、小説なのですね♪
でも、半分は実話ですよね。実際に博多へ出張されて、「さくら」
で東京へお戻りになる・・・
博多で仕事を終えられ、「さくら」でのHEROさんの「ひと時」
ロマンチックです(●^o^●)
私も仕事を終えた後は、なぜだかすぐに自宅に戻らず、自分のひと時をもちます。どこか落ち着ける場所をさがし・・・独りランチです。
そして、食後・・・気持ちを切り替えて自宅へ・・・
次回もまたお邪魔しますね♪
from:タンポポ

No title

タンポポさん、こんばんは。
私が博多出張から「さくら」で帰って来たのは実話ですが、この物語の内容はそれに私が想像を膨らませたものです。

仕事を終えて、飛びきりの自分だけの時間…仕事からの解放感がたまらなく最高ですよ!

タンポポさんの独りランチ…きっとタンポポさんの貴重なリセットの時間なのでしょうね。

またいらしてください。お待ちしてます!

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拙ブログにお越しいただきありがとうございます。 yahoo!ブログから移転しました。
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アメブロも運営していますが、懐古趣味に限定しています。宜しければ合わせてご覧ください。https://ameblo.jp/ef58137/

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